1998年度 活 動 報 告(敬称略)
98/05/18
5月18日(月) 午後7:00より
永田えり子氏著『道徳派フェミニスト宣言』(勁草書房)の合評会
「ジェンダー・コロキアム」(上野教官主催)との共催
    報告者:永田えり子氏
コメンテーター:千田有紀氏(東京大学大学院 博士課程在籍)
        小林盾氏(東京大学大学院 博士課程在籍)

 前回の活動は上記のように行われました。小林氏はおもに数理社会 学的な視点より、また千田氏はフェミニズム研究の視点よりコメント をされました(これは今野の個人的な印象です)。
 当日は多数の方々が参加され、著者の永田先生、ジェンダーコロキ ウムを主催されている上野先生を中心に参加者の方々と大変活発な議 論がなされました。
98/06/10
 日時:6月10日(水) pm3:00〜
 タイトル:「事務職における〈女性性〉の概念の展開1890-1970」
 発表者:金野美奈子氏(東大大学院博士課程在籍:社会学)
 場所:東大本郷キャンパス法文2号館 地下実験室(社会学研究室の真下)

 発表内容:
 ホワイトカラーの職場内ジェンダー構造の歴史的展開を把握する試みの   一環として理念的要素に注目する。<女性性>の概念がどのように取り  込まれ、変容し、男性と女性の経験を徹底的に分離した高度経済成長期  のジェンダー構造を支えるに至ったのかを跡付ける。(金野美奈子)
  前回の言語研は上のように開催されました。当日は8名の方に参加して  いただきました。金野さんのこれからの方針、上のような研究に要求され  る論証などにつきまして活発な議論がされました。
98/06/22
日時:6月22日(月) pm3:00〜
 タイトル:「社会的アイデンティティ・ポリティクス理論による集団現象の分析」
 発表者:川口 暁氏(東大大学院修士課程在籍:社会学)
 コメンテーター:神山英紀氏(東大大学院博士課程:社会学)
         他一名
 場所:東大本郷キャンパス法文2号館 地下実験室(社会学研究室の真下)
 〜修士論文検討会と併催〜

 発表内容:
 社会心理学の理論である「社会的アイデンティティ論」と社会学の理論である「準  拠集団論」を架橋し、集団の発生論からダイナミクスまでを統一的に説明する「社  会的アイデンティティ・ポリティクス理論」を提示する。集団成員のアイデンティ  ティ・ポリティクスというミクロな分析を、集団のダイナミクスの分析にまで展開  し、あわせて集団のもつ「超個人的な全体」としての性質を分析する。
 (川口 暁)
 当日の参加者は、川口・神山・河村・伊藤・今野・小林・松村・山田・瀬田の各氏 でした(敬称略)。修論検では、川口君の発表に関し、お二人のコメンテーターより こまやかなコメントがなされ、また参加者からも川口君の問題設定・問題意識などに 関して質問がだされました。
 今回も活発な議論がなされ、盛況のうちに修論検を終えることができました。参加 者の方々、どうもありがとうございました。言語研会員のみなさま、次回以降もよろ しくお願いいたします。
98/06/30
日時:6月30日(火) pm3:00〜5:00
 タイトル:「泣き寝入りはもうごめん?
    -日本女性のセクハラへの対応における社会的、法的意味-」
 発表者:林培紅氏(東大大学院修士課程在籍:社会学)
 コメンテーター:千田有紀氏(東大大学院博士課程在籍:社会学)  
       場所:東大本郷キャンパス法文2号館 地下実験室
    (社会学研究室の真下)
 〜修士論文検討会と併催〜

 当日の議論内容:
 報告者が今後、セクハラ問題のどういうところをテーマとして論文を書き上  げていくかということに関して、出席者のあいだで活発な議論が交わされま  した。報告者は、セクハラという状況に対して被害者の女性が告発せず泣き  寝入りをしてしまうのはなぜかということに対して、さまざまな調査手法を  用いてアプローチを試みており、今後の研究成果が期待されます。(赤堀三郎)
日時:6月30日(火) pm5:00〜
 タイトル:「映像作家マヤ・デレンに関する社会学的考察
          −モノグラフィーによるアプローチ−」
 発表者:小室葉月氏(東大大学院修士課程在籍:社会学)
 コメンテーター:アン・マクナイト氏(東京大学大学院博士課程:表象文化)
 場所:東大本郷キャンパス法文2号館 地下実験室
    (社会学研究室の真下)
 〜修士論文検討会と併催〜

 発表要旨:修士論文構想。
 1940年代のNYアヴァンギャルドの旗手、女性映像作家のマヤ・デレンの研究。  90年代の映画分析の主要ファクター、ジェンダー・人種・モデルの変数を用い、  フェミニストというイコンを付与されてきたデレンの受容史について考察した上で、  彼女の作品において重要な「精神分析」と「ダンス」と「プリミティヴィズム」が、  どのような力学で結びついているのか、カルチュラルスタディーズにおける身体  論や近年の文化人類学、また文学批評などの知見を参照しながら論じる、という  計画の発表(小室葉月)
98/07/01
日時:7月1日(水) pm1:00〜3:00
 タイトル:「近代日本における住居の生成」(仮題)
 発表者:祐成保志氏(東大大学院修士課程在籍:社会学)
 コメンテーター:佐幸信介氏(法政大学大学院博士課程在籍:社会学)
         葛山泰央氏(東大大学院博士課程在籍:社会学)
 場所:東大本郷キャンパス法文2号館 地下実験室
   (社会学研究室の真下)
 〜修士論文検討会と併催〜

 発表要旨;
 住居を「社会的に生産される空間」として把握するための準備的な作業とし  て、近代日本における住居の歴史的展開を、住居を対象化する言説的実践の  次元から捉える。具体的には、住居をめぐって組織されてきた「探検」「指  南」「調査」「計画」「供給」の実践を、歴史的な資料をもとにして再構成  する。さらに、それらの実践が、「住居」概念を媒介とした「可視化」と「再  構造化」の循環構造をそれぞれ形成していることを指摘する。(祐成保志)
 当日の議論:
 当日はコメンテータの葛山氏より、主に論理展開について諸問題が、佐幸氏から  は住宅論の系譜における問題点と祐成氏のもつ問題設定についての指摘がなされ  た。お二方のコメンテータより、より詳細にわたるコメントがなされ、今後の祐  成氏の研究成果が期待されます。(今野 晃)
日時:7月1日(水) pm3:00〜5:00
 タイトル:「無宗教とは何か-市民宗教論の再検討-」
 発表者:正田 和子氏(東大大学院修士課程在籍:社会学)
 コメンテーター:小池 靖氏(東大大学院博士課程在籍:社会学)
         他一名
 場所:東大本郷キャンパス法文2号館 地下実験室
   (社会学研究室の真下)
 〜修士論文検討会と併催〜

 発表要旨:
 日本人が宗教を忌避し、「無宗教」という自覚をもっていることについて説明しよ  うと試みる。その際、この現象を世俗化の概念で説明するのは不十分であることを  示し、市民宗教論について考察する。そして、従来の市民宗教論の日本への適用の  仕方とは違い、日本では「無宗教という自覚」こそが、この市民宗教にあたること  を明らかにする。(正田和子)

 当日の議論について:
 当日は、正田氏のおさえるべき先行研究についてのコメント、また正田氏の用いる  宗教概念の問題点についてなどのコメントがなされました。お二方のコメンテータ  より詳細にわたる指摘がなされ、研究の展開が期待されます。(今野 晃)
98/07/02
日時:7月2日(木)pm1:00〜3:00
 タイトル:「『日本調』の成立と普及:
 消費社会におけるナショナル・アイデンティティ」(仮題)
 発表者:武田 俊輔氏(東大大学院修士課程在籍:社会学)
 コメンテーター:宮本 直美氏(東大大学院博士課程在籍:社会学)
 場所:東大本郷キャンパス法文2号館 地下実験室
   (社会学研究室の真下)
 〜修士論文検討会と併催〜

 当日の議論について:
 参加者は少数でしたが、博士の方々を中心に、武田氏の問題関心・研究  方法にたいして建設的な意見がだされ、二時間はあっという間でした。  発表もたいへん興味深い内容で、非常に有意義な修論検になったと思い  ます。 修論検参加者のかたがた、暑い中どうもありがとうございました。  言語研会員のみなさま、次回以降もよろしくお願いいたします。(足立美樹)
日時:7月2日(木)pm3:00〜5:00
 タイトル:「科学技術の家庭生活への浸透
-『商品テスト』を事例とする生活文化批判の社会学-」
 発表者:半揚麻子氏(東大大学院修士課程在籍:社会学)
 コメンテーター:小林盾氏(東大大学院博士課程在籍:社会学)
         中馬祥子氏(東大大学院博士課程在籍:社会学)
 場所:東大本郷キャンパス法文2号館 地下実験室
   (社会学研究室の真下)

 当日の議論:
 当日の議論においては、コメンテーターのお二方より発表者の修論に  おいて必要とされる論証方法について、また発表者のもちいる概念や  問題設定のもつ問題点について詳細なコメントがなされました。
98/07/03
7/3  「統合ドイツと『ドイツ人』問題」(飯島幸子)

日時:7月15日(水) pm6:30〜 はげ研と共催
タイトル:「社会的経験の想起と社会的ムーヴメント:社会的テーマへ        の集団コミットの継続と風化に関する現象学的社会学的視        点からの研究」
発表者:藤森啓氏(東大大学院修士課程在籍:社会学)
コメンテーター:小林盾氏(東大大学院博士課程:社会学)
         伊藤智樹氏(東大大学院博士課程:社会学)
 場所:東大本郷キャンパス法文2号館 地下実験室(社会学研究室の真下)
 〜修士論文検討会と併催〜

 発表内容:
 社会的テーマへの集団コミット(例えば「消費税」について語ったり反対  のために投票行動したりすることの複合体)の継続と風化には、テーマを  成立させた過去の経験の作られ方が、それを想起することを媒介として、  大きく関わると考えられる。この、経験・想起・コミットの関連とそのメ  カニズムを、質問紙票調査への回答局面とコミット時の経験想起の局面と  が類似した構造を持っていることなどを利用して検討し、具体的な仮説を  提示する。(藤森啓)

 報告者の感想:
 コメンテーターの御二人の丁寧かつ適切なコメントをはじめ、参加者の皆さ  んから重要な指摘がいくつもなされ、修論作成の厳しさを再認識させられま  した。クリアすべきたくさんの目標を与えていただいだことになるので、こ  の夏休みはサボらなくて済みそうです。(藤森啓)

 会の様子その他:
 藤森の問題設定や方法論等に関して、参加者から大小さまざまな質問と意  見が出され、3時間におよぶ活発な討論が行われた。(藤森啓)

 興味深いテーマであるので,急いでモデルを作った上で,その検証と応用に取  りかかると良いと思います。また,個々の表現や全体の構成には,改善の余地が  かなりそうです。
  研究対象が以前より明確になり,今後明らかにすべき課題もきちんと自身で把  握しているようでした。コメンテータとフロアから出た疑問や提案を丁寧に検討  していけば,良い論文になることと思います。(小林盾)
98/08/29
報告者:小林 盾(東大大学院博士課程在籍)
タイトル:「スッピス改善としての臓器移植法」
要旨:
 この報告は,97年6月に可決された臓器移植法が,なぜ当初提案された中山 案・金田案ではなく修正案としてであったのかを,原理プロファイルに基づいた 社会的選択として説明することを目的としている。モデルとして,中山案支持者 と金田案支持者がそれぞれ独自の評価原理に基づいて,ドナーとレシピエントの 効用関数から諸法案を評価すると考える。まず当事者の効用関数と各支持者の評 価順序から,積極的立場は功利主義原理に,消極的立場は格差原理に基づいてい ることが分かる。次にこの時,立場の入れ換えを許したパレート改善であるスッ ピス改善が,二つの原理の共通部分であるため各支持者が共通に認める手続きで あり,修正案のみがスッピス改善可能であることから,修正案が社会的に選択さ れたと説明できる。
報告者:野上裕生氏(アジア経済研究所)
タイトル:「アジアの公害防止技術と後発者の利益」
要旨:
 途上国は先進国が経験した公害を事前に回避できるのであろうか。この報告では 公害防止技術の普及を中心にして、「公害防止における後発者の利益」を促進する 要因とその限界を考察する。
報告者:桜井芳生氏(鹿児島大学)
         (著作権保持)
         sakurai.yoshio@nifty.ne.jp
         http://ac3.aimcom.co.jp/~sakurai/
タイトル:社会ゲーム論(彼女がゲームをはじめたら?)(言語研究会980829発表)
    (副題)選択肢生滅問題・選択肢存続主要三類型・当為性の由来・人間の悩      みの三つの源泉。 要旨:
【あらすじ】本稿は、おもに三つの問題について、暫定的な回答案を提示することを 目的とする。第一の問題とは、人間社会において、「選択肢」が「消滅」したり「発 生」したりするのは、いかにしてなのか、という問題である。第二の問題は、人間社 会における「当為(べき)性」の由来はいかなるものなのかという、問題である。第 三の問題は、人が社会を生きている際に感じる悩みには主にどのようなものがあり、 それの解決はいかになされるのか、あるいは解決できないものはあるか、という問題 である。私が提案する回答が、これらの問題に関して「唯一にして、必要」であると いうことはありそうもない。しかし、私の提案する答案は、私の知る限りあまりいま まで展開されていない。よって、一つの「取りかかり」として提起するのは、今後の 探求の糸口になるように直観される。

第一の問題のさらに第一下位問題すなわち、いかなる場合に選択肢は消滅するのかと いう問題、この問題に対する私の回答は、純粋ナッシュ均衡が成立しているとき、と いうものである。第一の問題の第二下位問題すなわち、いかなる場合に選択しは発生 し存続するのかという問題。この問題に対する私の回答は、純粋ナッシュ均衡が不成 立となり、混合ナッシュ均衡が存在している場合、というものである。で、後者の純 粋ナッシュ均衡が不成立で、混合均衡が存在している場合には、おもに三つの主要類 型が考えられる。第一は、事態が、「非対称ゲーム」的である場合で、このときは、 人々は「悩んで選択する」ことがありそうになる。通常いう「選択」のもっとも典型 的ケースと思う。第二は、事態が「対称ゲーム」的である場合である。この場合も、 論理的にすぐまえと同様「悩んで選択」することもあり得る。が、典型事例として は、「階級分化(棲み分け比率が圧倒的でない場合)」と「一見自明な規律(棲み分 け比率が圧倒的である場合)」とにおおむね類型できる。うえのもっとも後ろの類型 の「一見自明な規律」が成立するとき、社会には「当為性」が成立する、というの が、第二の問題に対する私の答案である。
(著作権保持)
98/08/30
報告者:橋爪大三郎氏(東京工業大学)
タイトル:選択・責任・連帯の教育改革
要旨:
この提案は、社会経済生産性本部・社会政策委員会の専門委員として、この春 にまとめ7月に公表したものである。その骨子は、現状を「学校が教育機関として機 能していない状態」ととらえ、その根本的な原因を、教師・校長・親・生徒のあいだ の「連帯の喪失」と捉える。改革は、小中学校の学区制の廃止・校長の権限強化、高 検(高等学校学力検定試験)の導入と入試の廃止、大学学生定員の廃止(キックアウ ト制)と入試廃止・奨学金の大幅拡充、を柱とする。来春には最終報告書をまとめる 予定。中間報告書の全文は、http://www.valdes.titech.ac.jp/~hashizm で見られる。
報告者:金原克範
タイトル:インターネット上の言語活動
要約:
1:インターネット上の活動の推移
使用者の増加
 1998年6月、我が国でインターネット使用者1000万人突破
 高校生1クラスあたり、1人(1997年4月)から17人(1998年4月)へ。
 使用状況の推移=ウェブ的なものからチャット的なものへ
  YAHOO,gooの、検索エンジンからフリーメーラへの移行
  YAHOO JAPANにおけるページャ(チャットソフト)
  製作者にコストを要求するWEBから、随時参加可能なチャット・掲示板への移行

 現在、トラフィック過大の最大要因となっているのはNET NEWSである。
 掲示板・ページャと異なり、WEBのように「開かれた」存在。
 随時参加・随時閲覧可。
 テーマごとに細分化されており即時アクセス可能。
 アクセス時ごとに新しい情報を入手できる(個人のWEBでは更新は非常に困難)。

 WEB=地方の図書館。情報はあるが検索困難。たいていは古いもの。必要な情報の  入手までに時間がかかる。手続きが面倒。ただし新聞のまとめ読みなどには便利。  NEWS=地方の書店。ないしは駅の売店。立ち読み雑誌程度の水準のものしか置  いてない。ただし発行後1週間以内の新しいものが多い。
      
2:NET NEWSの無法化
  NET NEWSでは現在以下のような問題が観察されている。
   スパムメール/メールボム/不要なレスポンス/他者の投稿の削除    /特定投稿者のサーバ側の受け取り拒否設定/リメイラーを用いた匿名投稿    /プライバシーの暴露
  管理者がいるところでも頻繁に起こりうる情報流出(パソコン通信)
  国家管理より問題の大きい部分もある。(個人の意図によりたやすくコントロール)
  
3:NET NEWSからの語彙抽出
  共同通信NEWSハイライトとfjの比較
   前者は古典的ニュースソース。後者は「現代的」ニュースソース。
   語彙抽出プログラムにて日本語3文字以上・繰り返し3回以上の頻出語彙を双
   方から抽出。
   fjでは共同通信NEWSハイライトと比較して頻出語彙としてカウントされる単
   語が多く、特定単語の使用頻度が高いことが示唆された。
   また、抽出された単語では、前者では固有名詞、後者では指示代名詞の頻度が
   高かった。
  語彙の貧困=実質的な情報量の減少?
   高度情報化を示唆しながら、インターネットにおいては受信者において獲得さ
   れる情報量は他のコミュニケーションと比較して減少している可能性有り。
  固有名詞から指示代名詞への変化。
   共同通信NEWSハイライトでは固有名詞多し。
   fjでは指示代名詞多し。
   この推移は言語一般に生起しているもの?

  インターネット環境において頻繁に観察されるコミュニケーション不能状況(
 感情的葛藤の生起)は、使用者の語彙の貧困に伴う実質情報量の減少に負っている可
 能性有り。
  ネチケットには意味はあるのか? 情報量の減少を心理的に処理するのでなく、
 情報量の増大でこそ補うべき。
  あるいはシステム的問題?
98/10/29
「デリダとヒュームにおける反復と正義」(河村倫哉)
99/01/28
「商品テストの科学技術社会学的分析-『暮らしの手帳』を中心として-」(半揚麻子)
99/02/01
「近代日本における住居の生成」(祐成保志)
99/03/20
☆江戸時代の儒教思想と西洋医学
                   北澤一利(北海道教育大)
 1774年に解体新書の翻訳を行った杉田玄白の@進歩的歴史観とA現存制度に対する 主体性に注目した。前者の出自は明かではないが、後者は古学派荻生徂徠の影響であ ると考えられる。
 解体新書翻訳の理由を「一度着実な実証にもとづく説を唱えておけば、いつかは、 千年来おかしてきた誤りが改められる日もくるにちがいないと、ただそう期待してい るまで(和蘭医事問答)」と説明する玄白には進歩的歴史観が認められる。この歴史 観は玄白に先立つ儒者にはみられない新しいものである。
 解体新書は解剖の入門書であり、医学専門書のレベルからみれば高度なものではな い。まして西欧医学の完成品ではない。玄白はこの「未完成品」をもって、由緒格式 が正統な「完成品」を公開するのが常識であった当時の漢方医学に正面から対抗した 。蘭学に対する厳しい規制があった中で、細心の注意を払って翻訳をやり遂げた玄白 には、既存秩序に対する主体性を認めることができる。
 丸山眞男によれば、秩序に対する自由な主体性は徂徠によってはじめて可能になっ たという。玄白は多数の著作の中で頻繁に徂徠を引用している。
自由主義の構図
                  河村倫哉(東大大学院在籍)
自殺主義と科学
                    金原克範

 本報告では、社会学的「疎外」状況こそ自殺の主原因であるというデュルケム『自 殺論』の主結論に対し、ひとつの対案を提出する。
 社会学的「疎外」状況の強さにより対象者の現状を判断する方策は『宮崎勤精神鑑 定書』などにみられる鑑定者の手法通り、現在の社会問題解析手法の主流となってい る。しかしこの方法では、個人の外界への興味・関心を正確に捉えることはできない。 そして報告者は、共同体中心主義にではなく、個人の外界への興味・関心の持続こそ、 自殺主義の対極的判断があると結論する。
コミュニケーション変動の記述法
                    赤堀三郎(東大大学院在籍) 

 現代社会の記述法を考えるにあたって、本報告は「コミュニケーション・コードに 係る変動」に着目する。ここではまず、ニクラス=ルーマンの社会システム理論を踏 まえてコミュニケーション・コードを二つのサイドをもつ非対称的な区別として捉え る。その上で、コミュニケーション変動をコミュニケーション・コードが新たに生ま れる「創発」と、コミュニケーション・コードという非対称的な区別に基づいた意味 構成が反転する「横断」の二パターンに分類する。このような枠組は、さまざまな異 なる観点が複雑に絡み合う「多次元的」な社会を分析するにあたって有用である。
99/03/21
「地球温暖化対策における環境的公正」
                     野上裕生(アジア経済研究所)

要旨:この報告では地球温暖化対策を世代内の一致した協力による世代間の協力の 視点からその根拠を与え、その時に許容される温暖化削減ルールとしてロールズと アトキンソンの均等所得分配の概念の応用可能性を考える。
世紀をまたぐ日中関係
                  橋爪大三郎(東工大)

来世紀の日中関係を展望するため、明治維新以来の中国と日本の関係を回顧し、国民 国家形成の過程で日本と中国が衝突しなければならなかった必然について考察した。 また特に、日清戦争、日露戦争、満州事変、日華事変、大東亜戦争にいたる日本の対 中政策、中国の対日政策の原則と変遷を考察した。本稿は、香港中文大学の雑誌『二 十一世紀』に発表の予定。
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